(2)ヒメ?コウホネ(Nuphar subintegerrima(Casp.) Makino)の種子由来の植物体を発見!
※ここでいう,ヒメコウホネとはいわゆる西日本型のヒメコウホネで狭義のヒメコウホネではありません
あんまり,コウホネ関係のことはコラムに書きたくなかったのですが,やっぱり自信を持って書けるのはこの仲間の話なので,コラムをちょくちょく書きつづけるためにも「種子由来の植物体」の話をしたいと思います.
コウホネの仲間は種子による有性繁殖と,ぶっとい根茎の伸長と分岐による栄養繁殖の2通りの方法で集団を維持,分布の拡大をします.
コウホネの仲間はたくさんの種子を作るのですが(コウホネは1つの果実あたり種子を130個つくる(中村・山遠,1986)),野外ではほとんど種子が発芽した幼個体は観察されず,ほどんどが根茎由来の株ばかりでした.
現在では1つのパッチが1〜数個体によって構成され何年もかけて数十〜百uもの大きな群落になり,長期間維持されている(寿命は100年以上のものも!),と考えられています(Hart
& Cox,1995;Barrat,1996).
種子の発芽が野外で確認されない理由としては・・・
・種子の定着した場所が発芽に適さない
・発芽に適した場所を親個体に既に占拠されている
・発芽しても食害を受ける(三原・國井,1994)
などが考えられます.
実生からの定着が積極的に見られる報告はオゼコウホネ(Nuphar pumila var. ozeensis)でしかありませんでした(村山ら,1998;金井,2002).実生から新しい群落が出来たという報告は海外では皆無なので,これは極めて珍しい例なのかと思っていました(実際,珍しいけれど).
でもちょっとねー.そんなわけねぇーだろうなーと思ってたんですよ.だって,酵素多型解析から集団内に結構な個体数がいるってことがわかっていたから.
さて,本題ですが,小野市のヒメコウホネ集団を観察に行ったら,水が流れ込む付近に種子発芽由来の植物体(3-4年目)を発見しました.
発芽から3-4年の個体.
発芽から3年目の個体.
根茎が未発達なのが見てわかると思います.
やはり,何年かに一度は人知れずどこかで種子の発芽がみられているのではないかと思いました.
欧米は何か他に新生個体が新しく集団を作るのに障害となることがあるのかもしれません.あるいは,日本のコウホネとは生態的な特徴が全然異なるのかもしれない.
なんか,まとまりのないコラムですが,もし野外で種子から発芽して数年と思われるコウホネを発見したらメールいただければ幸いです(って誰がくれるのだろうか・・・).
参考文献
Kimberly H. Hart, and Paul A. Cox, F.L.S.,1995.Dispersal ecology of Nuphar luteum (L.) Sibthorp & Smith: abiotic seed dispersal mechanisms.Botanical Journal of the Linnean Society 119:87-100.
Marie-Helene Barrat-Segretain,1996.Germination and colonisation dynamics of Nuphar lutea (L.) Sm. In a former river channel.Aquatic Botany 55:31-38.
金井弘夫,2002.尾瀬ヶ原の池溏データベースによるヒツジグサとオゼコウホネの16年間の分布消長.Journal
of Japanese Botany 77(1):38-46.
中村秀治,山遠順子,1986.中頸城湖沼群の陸水生態学的研究.新潟大学教育学部卒業論文
PP.163.新潟大学.
三原健吾,國井秀伸,1994.宍道湖周辺のため池におけるヒツジグサの定着に及ぼす水生動物の影響.Laguna
1:53-58.
村山恵子,福原晴夫,角野康郎,1998.尾瀬ヶ原におけるオゼコウホネとヒツジグサ(スイレン科)の遺伝的変異.尾瀬の総合研究 尾瀬総合学術調査団:274-288.