コラム

(1)新潟県で初記録!ササエビモ(Potamogeton nipponicus Makino)!
  -新潟県からエゾヒルムシロが消える?-

 ※このコラムの内容は志賀・石澤(2002)にも書いてあります.引用したい場合はそちらをどうぞ.

ササエビモ(Potamogeton nipponicus Makino)はエゾヒルムシロとヒロハノエビモの雑種の一型と考えらており,冷涼地の河川や湖沼に稀に産する沈水植物です(角野,1994).

この,ササエビモを新潟県中頚城郡吉川町で発見しました.親種であると考えられているエゾヒルムシロはその池において過去採集記録があり,新潟県内において確認されているおけるエゾヒルムシロの生育地はその池のみであるとされています(伊藤,1989).

 ササエビモ群落の様子.

 ササエビモ.

今回,採集したときもこの植物をササエビモではなく、をエゾヒルムシロと同定していたのですが,標本を角野先生に見ていただいたところ,「志賀君,こら,エゾヒルムシロちゃうなー,ササエビモやで」ということでした.
現地での観察では,実を作っていなかったことからも納得できました.たくさんの植物を見ないと同定は難しいと痛感しました.

それはさておき,ササエビモは新潟県では初記載です.やりました(同定したのは角野先生ですが).

でも,そうすると,新潟県にエゾヒルムシロは本当にいるのかどうか問題です.だって,新潟県版のレッドデータブックに堂々,絶滅危惧T類にとりあげられているんですから(新潟県,2001).実在しない植物にカテゴリーが当てられていたらそれも問題です.
むむむぅ,困った.過去に採集されている標本はないものか・・・

探してみるとあっさり神戸大学の標本庫にありました.同じ池で採集された伊藤至先生の標本が.
観察してみると,浮葉を作っています.ですが・・・注意してみてみると,沈水葉が今回,私が採集したものと瓜二つです.というか全く同じ.エゾヒルムシロよりも幅が広く,葉脈が目立ち,ヒロハノエビモに近い感があります.花序もよく観察すると,実を作っていません.
・・・ササエビモは浮葉をつくるの??でもやはりどうやら,典型的なエゾヒルムシロでは無いようです.

ササエビモはいままで浮葉は作らないとされてきました.また,エゾヒルムシロ自体,形態の変異幅が大きいといわれています.この問題は,「ササエビモという分類群はどんな実体を持つヤツなのか?」ということに発展しそうです.今後,誰かが研究してくれると助かるのだけれど・・・


ということで,今のところ新潟県にはエゾヒルムシロもいて(典型的なものがもしかしたらいるかも),ササエビモもいることにしました.来年度もう一度詳しく観察してみようと思います.
雑種と考えられているササエビモがいるということはやはり親種はこの池周辺にいたかもと考えてもあながち間違いではないからです.
ヒルムシロはホント難しいです.


参考文献
伊藤 至,1989.新潟県のヒルムシロ属植物.長岡市科学博物館研究報告 24:9-17.
角野康郎,1994.日本水草図鑑.文一総合出版,東京.
新潟県,2001.レッドデータブックにいがた.467pp.新潟県環境生活部環境企画課.
志賀 隆・石澤 進,2002.新潟県頸城湖沼郡の水生・湿生植物相.水草研究会会報 74:1-22.

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