中部日本から発見されたコウホネ属(スイレン科)の新種Nuphar submersa

志賀 隆(神戸大学大学院自然科学研究科)*・石井 潤(東京大学大学院農学生命科学研究科)・井鷺裕司(広島大学総合科学部自然環境科学講座)・角野康郎(神戸大学理学部生物学科)

Shiga T., J. Ishii, Y. Isagi & Y. Kadono-Nuphar submersa (Nymphaeaceae), a new species from central Japan

栃木県において発見されたコウホネ属植物の形態と遺伝的特徴について,これまで報告されている近縁種と比較を行い,新種Nuphar submersa Shiga and Kadono(シモツケコウホネ)として記載した.コウホネ属でこれまで報告されている分類群は全て浮葉〜抽水性の植物であるが,シモツケコウホネは河川・水路に生育している沈水性の植物である.止水域で栽培するとまれに不完全な浮葉形成が観察されるが,完全な浮葉形成能を失った特異なコウホネ属植物として注目される.本種は葉柄の断面が中空であることや,花形態においてオグラコウホネN. oguraensisと類似しているが,狭長楕円形〜狭三角形の細長い沈水葉を持つことで明らかに識別される.また,沈水状態のコウホネN. japonicaからは沈水葉の葉身基部がほとんど切れ込まないことと,雄しべの形態や赤色の葯と果実によって区別される.
 コウホネ属の他の分類群を含めて行ったAFLP分析では,シモツケコウホネにのみ見られる特異的な断片が13検出された.また,得られた多型に基づいて系統解析した結果,シモツケコウホネはオグラコウホネの姉妹分類群として系統的にも明らかに区別されることがわかり,新種として認識すべきものと判断した.
 標本調査の結果,シモツケコウホネは栃木県に分布が限られ,7産地からの採集記録が確認された.しかし今回,現地調査を行ったところ生育を認めることができたのはわずか2集団のみであり,他の5集団は消滅したことが明らかになった.残存する集団のサイズは非常に小さくなっており,今後の早急な保全対策が望まれる.

*現在の所属:大阪市立自然史博物館

 シモツケコウホネNuphar submersaの図解(Fig. 2)

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