新潟県頸城湖沼群の植物相(要旨)

志賀 隆(新潟大学理学部自然環境科学科)

 新潟県には,海岸沿いの低地に発達した砂丘列に湛水してできた潟湖,砂丘湖が多くみられ,中頸城地方には「頸城湖沼群」と呼ばれている湖沼群がある.湖沼群のなかでも朝日池,鵜ノ池は新潟県を代表する湖沼である.水辺環境が人為的に改変されてきているなかで,その地域の植物相を把握することは急務であるが,上記湖沼群においては,短期間の調査が数回行われてきたに過ぎない.本研究では,頸城湖沼群の現在の正確な植物相とその特徴を把握することを目的に調査を行った.

 確認できた植物は朝日池で533種,鵜ノ池で538種,頸城湖沼群全体では658種であった(亜種,変種,品種,帰化種を含む).帰化率は朝日池で11.5%,鵜ノ池では10.4%と他の平野部の湖沼と比較して低い値を示した.また,確認された貴重種も多く,環境庁レッドデータブックによって絶滅危惧種に指定されている種は15種が確認された.更に,県内稀産種を加えると稀少種は約50種になる.これらのほとんどが県内において限られた地域にしか生育していない水生植物であった.これらのことから頸城湖沼群は質,量ともに豊かな植物相を保持していることが明らかになった.

 頸城湖沼群に特異的にみられる水生植物は,冷涼な水域を好む北方種や貧栄養環境に偏って出現するものであった.これらは,周囲の砂丘地からの湧水とその流れに依存して分布しており,本調査地の特徴ある植物相を支える素因は湖岸を形成する砂丘の形状とその周辺地域の土地利用にあると考えられた.

 平野部の湖沼は人為的な影響を受けやすく県内の様々な水域において水生植物が消滅しているが,本調査池においても同じような傾向がみられた.現在,当地において周囲の砂丘を含めた大規模な都市公園計画が進んでいる.湖岸改修はもとより,集水域である砂丘が開発されることは,湧水に依存している種の消失の原因になると考えられる.

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