中部〜西日本におけるコウホネ属の形態変異とその分類

志賀 隆(神戸大学大学院自然科学研究科)・角野康郎(神戸大学理学部生物学科)

Shiga T. & Y. KadonoMorphological variation and classification of Nuphar with special reference to the populations in central to western Japan

 コウホネ属Nuphar Smith(スイレン科Nymphaeaceae)は北半球の主に温帯の淡水域に生育する抽水〜浮葉性の多年生水生植物である.日本においては2−4種生育するとされているが,形態形質が多様な変異を示すことから,現行の分類には,いくつかの問題が存在することが指摘されてきた.本研究では日本産コウホネ属の多様な変異の実態を明らかにし,分類学的再検討を行うために,コウホネN. japonica DC.,オグラコウホネN. oguraensis Miki,ヒメコウホネN. subintegerrima (Casp.) Makino,ならびに中間的な形態を示す植物体を含めて全国52集団より採集し,形態形質の解析を行った.
 選定した15形質をもとにしたクラスター分析により,大きく5つのクラスターが得られた.そのうちクラスターA,C,Eは特定の形質で特徴付けられ,それぞれがコウホネ,オグラコウホネ,ヒメコウホネの従来の記載とほぼ対応していた.残りのクラスターBとDは特異的な固有の形質を持たず,中間形を示した.これまでヒメコウホネは東海地方に生育する小型のタイプ(原記載に該当)と,西日本に生育するやや大型タイプの2型の存在が指摘されているが,後者はこの中間形に相当し,狭義のヒメコウホネとは形態的に明らかに異なることが示された.2つの中間形グループはそれぞれコウホネとオグラコウホネ,コウホネとヒメコウホネの中間的形態を示し,雑種起源である可能性が示唆された.狭義のヒメコウホネは本研究の結果より分布が局限し,集団数が少ないことから絶滅の危機にあることが示された.

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